学習・習慣
「もし〜なら、〜する」と決めるだけで、行動は変わる?
If-ThenプランニングImplementation Intentions
「もしXなら、Yする」という形で、行動する場面とやることを前もって結びつけておく方法。
30秒でわかる
何に使うか
やる気はあるのに始められない行動について、いつどこで何をするかを先に決めておくときに使う。
根拠はあるか
強い。94件の検定をまとめたメタ分析では中〜大の効果が報告されている(要旨で確認)が、退役軍人病院の接種案内のように差が出なかった現場の試験もある。
どう使うか
「もし〇〇の状況になったら、△△をする」と1文で書き、場面はできるだけ具体的に日付や時間まで決める。動機のない目標には効かないので、やる気はあるのに手がつかないことに使う。
手順と記入例は準備中です。上の「どう使うか」と、「要点」をご覧ください。
- 強。理由: 実験・メタ分析が積み上がり、効果も中〜大。
- Gollwitzer & Sheeran (2006)「Implementation intentions and goal achievement: A meta-analysis of effects and processes」*Advances in Experimental Social Psychology* 38, 69-119。DOI: 10.1016/S0065-2601(06)38002-1。アブストラクトによれば94の独立検定で目標達成への効果は d=.65(中〜大)。開始、妨害からの保護、失敗行動からの離脱、将来の目標のための資源温存に効く。メカニズムとして、機会の想起しやすさ向上と反応の自動化の両方に支持があるとされる。(アブストラクトのみ確認。本文は未確認。)1
- 後続: Sheeran, Listrom & Gollwitzer「The when and how of planning: Meta-analysis of the scope and components of implementation intentions in 642 tests」*European Review of Social Psychology* 36(1), 162-194(2025年号、DOI: 10.1080/10463283.2024.2334563)。件数642はリポジトリ記載で確認。全体の効果量は未確認。2
- 限界・注意: 結果が出ない現場試験もある(下記「失敗・批判の公表例」)。BITの改訂版EASTは、実行意図が多くの行動で有効という文脈を維持しつつ、初版の一部知見が再現しなかったと明記している(実行意図以外の知見)。「全員・全場面で効く」という書き方は避ける。3
- 2023年の研究(Instant habits versus flexible tenacity)が、if-thenが状況の全容を知らないと柔軟性を損ねる可能性を示すという検索要約があるが、本文は開いておらず未確認。4
うまくいかなかった例と批判
- 米国 Office of Evaluation Sciences(GSA)とセントクラウド退役軍人病院/2017〜18年シーズン/OES公式要約(上記sources)/退役軍人43,413人を3種のはがき(基本情報、社会的規範、実行を促す具体的な計画の記入)にランダム割付。結果は、3群で接種率はいずれも約40%、接種の有無・時期とも有意差なし。実行意図型のはがきが基本はがきを上回らなかったと、組織自ら公表している。なお対照(はがきなし)群はない。5
- BITの改訂版EASTは、初版の知見の一部(署名位置の実験)が再現せず撤回されたと公表している(実行意図ではないが、行動科学の再現性への姿勢を示す)。3
この節では、組織が自ら公表した使用例だけを数えています。解説や手引きは別に載せています。
① 組織自身が使ったと公表した例
- なし(確認できた範囲で)。日本の組織・自治体が自ら公言した使用事例は、検索では見つけられなかった。個人ブログや解説記事のみ。推測では書かない。
② 研究・評価として公表された試行/研究報告における実施例
- Behavioural Insights Team(英国、BIT)/EAST「Four simple ways to apply behavioural insights」改訂版(初版2014年、改訂版の発行年は未確認、参考文献に2024年を含む)/BIT公式PDF(3)/行動変容の手法として実行意図を推奨し、例として、職場の食堂で果物のレジに行くという計画を挙げる。求職者支援で、担当者と翌週の行動計画(いつ・どこで何をするか)を立てた求職者は、13週後に給付を受けていない割合が有意に高かったと記載。ただし、これは「週の行動計画」であり、厳密な if-then ではない点に注意。(求職者支援の試行を、評価・助言を行う BIT が自らの手引きで紹介したもの。厳密な if-then ではないので、近縁の実践とも言える)
- Milkman, Beshears, Choi, Laibson, Madrian(研究チーム)と大企業の従業員/2011年/PNAS 108(26), 10415-10420(6)/従業員向けインフルエンザ予防接種の案内に、接種の「日付と時間」を書く欄を付けた。対照群の接種率33.1%、日付のみは+1.5ポイント(有意でない)、日付と時間は+4.2ポイント(有意)。対象は3,272人。企業名は公表されていない。研究者の学術報告であり、企業自身の発表ではない。
- Gollwitzer ら(研究者本人)/1997年(Gollwitzer & Brandstätter)/1999年論文の紹介(7)/クリスマス期間のレポート課題で、時間と場所を決めた群の約4分の3が期間内に実行、対照群は約3分の1。
③ 近縁実践・参考例(原典との対応未確認)
- なし(確認できた範囲で)。
④ 手引き・解説(使用実績ではない)
- なし(確認できた範囲で)。
まとめ: 組織自身が使ったと公表した例は「なし」。研究・評価として公表された試行/研究報告は3件(BIT の求職者支援〈週の行動計画で厳密な if-then ではない〉、Milkman らの接種研究〈企業名非公表〉、Gollwitzer らの実験)。日本の事例は0件。
- 原典: Gollwitzer (1999) 「Implementation intentions: Strong effects of simple plans」。Konstanz大学サイトで全文PDFが公開。約10ページで、若手にも読みやすい。
- 邦訳(実在確認はNDLサーチで書誌のみ):
- ガブリエル・エッティンゲン(Oettingen, Gabriele)『成功するにはポジティブ思考を捨てなさい:願望を実行計画に変えるWOOPの法則』講談社、2015年。実行意図を組み込んだWOOPの解説書(内容の詳細は未確認)。
- ハイディ・グラント・ハルバーソン『やってのける:意志力を使わずに自分を動かす』大和書房、2013年(2019年に再刊の書誌もあり)。if-then の記述の有無は未確認。
- ゴルヴィツァー本人の邦訳書は今回見つけられなかった。
原典で確かめたこと
- 提唱: Peter M. Gollwitzer。「Implementation intentions: Strong effects of simple plans」*American Psychologist* 54(7), 493-503, 1999。DOI: 10.1037/0003-066X.54.7.493(DOIは検索結果で確認、本文PDFはKonstanz大学サイトで全文を読んだ)。7
- 主張: もし状況Xなら反応Yをする、という形で、予想される重要な状況と目標に沿った反応を事前に結びつけると、状況の手がかりが反応を自動的に引き出し、目標達成が助けられる。動機(目標意図)を強めるだけでは足りない人に、行動の始動を助ける道具として提示している。7
- 1999年論文の実験例(本文で確認): 乳房自己検診を強く意図していた女性のうち、いつ・どこでを書いた群は100%実行、書かない群は53%(Orbell, Hodgkins & Sheeran 1997 の紹介)。クリスマス中のレポート課題では、時間と場所を決めた群の約4分の3が期間内に提出、対照群は約3分の1(Gollwitzer & Brandstätter 1997 の紹介)。7
- 概念は1999年が初出ではない。1999年論文は Gollwitzer (1993) 章、(1990) などを引用して理論を要約している。7
出典
- kops.uni-konstanz.de/entities/publication/2e749bfb-8533-437c-8203-7e788c ↩
- kops.uni-konstanz.de/handle/123456789/69905 ↩
- bi.team/wp-content/uploads/2014/04/BIT-EAST.pdf ↩
- pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10585941 ↩
- federalist-9dc074d2-9bb0-4720-8e37-036899ae1463.sites.pages.cloud.gov/pr ↩
- pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3127912 ↩
- www.socmot.uni-konstanz.de/sites/default/files/99_Gollwitzer_Implementat ↩
各ページは確認日の時点で開けた資料にもとづきます。根拠の強さの決め方